電脳ミツバチのコンピュータ広報室

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数学の大統一に挑む①-群論からフェルマーの最終定理まで

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 皆さんこんにちは

この度青木薫さんの翻訳で新しい数学の本が出たので早速購入しました。

 

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www.amazon.co.jp

 

青木薫さんといえば世界最先端の数学の深遠な世界を、物語風に分かりやすく説明してくれる翻訳の第一人者です。

他にも

などがありどれを取っても珠玉の出来ですので是非ご興味あればご一読ください。

 

今回のテーマは「ラングランズ・プログラム」ということです。

本の紹介を見ると

ブレイド群」「リーマン面」「ガロア群」「カッツ・ムーディー代数」「層」「圏」…、まったく違ってみえる様々な数学の領域。しかし、そこには不思議なつながりがあった。やがて少年は数学者として、異なる数学の領域に架け橋をかける「ラングランズ・プログラム」に参加。それを量子物理学にまで拡張することに挑戦する。ソ連に生まれた数学者の自伝がそのまま、数学の壮大なプロジェクトを叙述する。

Amazon.co.jp: 数学の大統一に挑む: エドワード・フレンケル, 青木 薫: 本

 

つまり数学の分野を横串にして扱える統一理論が現在数学界で起こっている最先端、このラングランズプログラムだということです。

 

しかし・・・

 

読んでみるとこれがなかなか難しい。上記フェルマーや暗号解読の比じゃないです。自伝半分なのでさらっと読み飛ばすこともできるけどラングランズプログラムの一端にも触れられませんでした。

そこで改めて数学的な内容を復習しつつそちらの面からまとめていくことにします。

 

第5章 群とは

群という概念はエヴァリスト・ガロアという神童が20歳の決闘前日に大急ぎで書きなぐった数学界の至宝です。

一般的な群の特徴はそんなに難しくありません。

  1. 結合法則: a+(b+c)=(a+b)+c
  2. 単位元の存在:a+0=0+a=a
  3. マイナス元の存在: a+(-a)=(-a)+a=0

この条件が満たされると群と呼びます。

 結合則が成り立つということは,一連の演算があったときに『どこから手をつけてもいい』ということです. (acirc b)circ c = acirc (bcirc c) がなりたつので,これに括弧をつけず, abc のように書いてしまっても混乱はない,という主張でもあります.もしも結合則が成り立たないと,連続的に演算を行うのがえらく不便になります

群の公理に関しては群の公理 [物理のかぎしっぽ]が分かりやすいです。

因みにこれに

   交換法則:a+b=b+a

が成り立つと「アーベル群」と呼びます。

 

ガロアは「演算の本質は,対象物(数など)そのものにあるのではなく,対象物の間に成り立つ算法の法則こそが大事なのだ。」と考えました。つまりそれまで古代バビロニア以降、数学とはいわばアルゴリズム(解法)の研究であったのに対し、扱う対象も,その対象に成り立つ演算も,すべて抽象化してしまって,『演算対象と,その間に成り立つ演算という構造だけ』を抜き出して考えるという,いわば代数学の抽象化が19世紀に進みました。

 

第7章 大統一理論。ロバートラングランズについて

数学には様々な領域がある。それらの領域はしばしば別の大陸のように感じられる。・・しかし彼の野望は単に少数の島をつなぐというだけに留まらなかった。1960年代の末に彼が創始したラングランズ・プログラムは今日ではたくさんの島に橋をかけるメカニズムを見出そうという運動に発展している。ラングランズは現在、プリンストンの高等研究所で数学の名誉教授となっている。それは、かつてアルベルト・アインシュタインが在籍していたところである。

 

第8章 フェルマーの最終定理背理法による証明ー

 

フェルマーの最終定理とは

{x^n + y^n = z^n}

の解となるn=3 以上のx,y,zは存在しないというものです。

余談だけど本書P143にはnが2以上と書かれているけどn=2は{3^2 + 4^2 = 5^2}などで存在するので誤植です。

1994年10月にアンドリュー・ワイルズによって証明を発表。1995年のAnnals of Mathematics誌において出版し、その証明は、1995年2月13日に誤りがないことが確認され、360年に渡る歴史に決着を付けました。

こちらがその論文です。

http://math.stanford.edu/~lekheng/flt/wiles.pdf

それでは解決に至るまでの一連の経緯を記述します。

 

「Nを法とする」

時計を見るときにこの算術を使います。我々は8時の6時間後を考えるときに8+6=14であるのに午後2時と考えます。この考え方が「12を法とする」といいます。

例えば

{y^2 + y = x^3-x^2}

という3次方程式において「5を法とする」と考えるとx、yにそれぞれ何がはいるでしょうか?

簡単なところではx=0,y=0があります。x=1,y=4でも16+4=1−1となり20=0ですが、ここで5を法としているので0=0が成立します。他にもx=0,y=4。x=1,y=0の「4通り」の解が存在します。

よく

「1+1は2にならない世界もあるんだぜ」

という人がいますがこれは2を法とした場合1+1=0となるからです。

閑話休題。ここでpを法とする解の個数を探すことにします。p=5のときは当然p=7やp=11といったときとは解の数が異なるのはイメージつくと思います。この方程式のpを法とする解の個数はpにどのように依存しているのだろうか。数学者たちはしばらく前からおよそpと解の個数が等しいことを知っていました。実際の解の個数との差を「不足」と呼び{a_p}で表すことにします。つまりpを法とする解の個数は

{p-a_p}

 で表されます。

pとpを法とする解の個数は一見ランダムに見えます。しかし全ての{a_p}を一挙に生成する、シンプルな規則があるとしたらどうでししょうか。1954年ドイツの数学者マルティン・アイヒラーがまさにそんな規則を見出したのです。

{q(1-q)^2(1-q^{11})^2(1-q^2)^2(1-q^{22})^2(1-q^3)^2(1-q^{33})^2(1-q^4)^2(1-q^{44})^2...}

括弧を外すと次のような無限級数を得ます。

{q-2q^2-q^3+2q^4+q^5+2q^6-2q^7-2q^9-2q^{10}+q^{11}-2q^{12}+4q^{13}...}

この係数1,-2,-1,2,1,2,-2...がそれぞれの乗数を法とする”先ほどの三次方程式”{y^2 + y = x^3-x^2}のpを法とした場合のpと実際の解の個数との差「不足」{a_p}を表しているのです。

先ほどp=5を法とする3次方程式の場合について、解が4つあると言いました。5乗のところを見ると係数は1。つまり5-1で解は4個と確かに正しいことがわかります。

つまりこの一行の式が、”先ほどの三次方程式”{y^2 + y = x^3-x^2}の解の個数に関する全ての情報を含む、秘密のコードなのです。この方程式の解は生物ではDNA分子にコードされていることが知られています。・・アイヒラーの驚くべき洞察は、素数を法とする”三次方程式”の解の個数は、ランダムに分布しているように見えるが、実は調和と秩序がとれているということを見抜いたことです。・・志村ー谷山ーヴェイユ予想は、アイヒラーの得た結果を一般化しました。この予想は”任意の三次方程式”について、素数を法とする解の個数はあるモジュラー形式の「係数」であると述べました。さらにその”三次方程式”と”モジュラー形式”の関係は1対1が成立するという驚くべき予想でした。ここでフェルマー方程式である種の”三次方程式”が作り出すことができると仮定します。しかし、ケン・リベットがその”三次方程式”の素数を法とする解の個数は、志村ー谷山ーヴェイユ予想によって存在が約束されているモジュラー形式の係数ではあり得ないことを示しました。つまり志村ー谷山ーヴェイユ予想が証明されればそのような”三次方程式”は存在せず、フェルマーの方程式にも解は存在しないということが証明されるとなるわけです。これをワイルズは証明したのです。